カウンターに五席、四人がけのテーブルがふたつの狭い店だ。私たちみんなが集まるとそれだけでテーブルが埋まる。神楽坂は飲食店が多く、激戦区ではあるのだが、価格帯や店のジャンルが、たとえば歌舞伎町や池袋と比べると幅広く、資本力のない個人店でも、うまいことニッチを見つければじゅうぶんやっていける──というのはミツカくんの言だ。彼はその人脈──要は宇野原さんのことだ──をいかして、読書バー、というのをやっていた。壁いちめんに本棚をつくりつけ、カウンターには読書灯を置き、メニューは単行本とかに挟まってる新刊案内のチラシを模したデザインで、本の貸出やリクエストの受付までやっており、そしてカウンターにはだいたい毎日、気鋭の小説家・宇野原慎吾がいる。宇野原さんがいるとキャンキャンうるさくて、誰も読書に集中できないのだが。
読書の邪魔にならないように、と、環境音楽というのか、ジャズとボサノバを合わせたような、ぜんぜん印象に残らない音楽がいつも流れている。
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