私が専業に、恋人が完全在宅勤務になって、住所もひとつのところにして、これでずっといっしょにいられるね、と私たちは言いあった。でも、平日はお互いに毎日、土日も私は仕事をしていることが多く、その間はそれぞれの部屋にこもっていて、私たちはいま、ほんとうにずっといっしょにいるのだろうか? 同時にトイレに立って、においを残すのいやさにゆずり合うのは楽しい。でもそれは、再会の楽しさとよく似ていて、ということは私たちは、ずっといっしょにいるのではなく、同じ家でずっと別にいて、一日に何度も会いなおしているのではないか。恋人からLINEが届く。〈煙草切れたからちょっと出るね〉〈いってら〉〈帰ったら始業します〉〈えらい〉すぐに返事をしたから、私が集中していないとわかったのだろう。彼女は私のドアをノックしてから開け、無言のまま手を振りあって出て行った。閉まったあとに甘い煙草が香った。彼女はたぶん、それが自分の体臭になっているとは気づいていないし、私が街なかでその匂いを嗅ぐだけでうれしくなることも知らない。
top of page
bottom of page
コメント