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2021年7月26日
2021.1.26
とにかく私は、今回も、平野の助言に忠実に、私語りからはじめることにした。いまの日常、本のこと、地元への思い、それなら私の人生のどこを切り取ってもだいたいテーマに合致してるはず、と自分に言い聞かせながら、小学生のころ所属していたサッカー部のことからはじめた。サッカー部の、私の...
2021年7月25日
2021.1.25
延々呻吟しているばかりでは何も書けるはずはなく、私は苦し紛れに、思い出話を書きはじめた。むかしTwitterで、あれは誰だったか、エッセイやコラムを書くときの秘訣、について投稿していた。自分のこと──私生活や記憶について──がテーマでなく、社会批評や書評のたぐいを書くときで...
2021年7月24日
2021.1.24
小説に関してはそうだ。私は小説を書きつづけ、たぶんそれなりに上達してきた。しかし、私は新人賞を受けるまで、小説を書くトレーニングしか積んでこなかった。受賞を知らせる電話で編集者は私に、受賞のことばを書いてください、と言った。しめきりは、短くて申し訳ないのですが五日後くらいで...
2021年7月23日
2021.1.23
私は、小説を高校一年のときに書きはじめた。友人が同人誌を立ちあげることになり、短歌、漫画、映画評、アニメレビュー、詩、ひととおりのジャンルの担当者をそろえたところで、そういや小説がいない、と気づき、仲のよいうちでわりと小説を読んでいた私に白羽の矢を立てたのだった。私はたしか...
2021年7月22日
2021.1.22
いまの、東京で執筆する日常、読んだり書いたりした本のこと、そして地元への思い。そういうことを書くよう求められて、私は第一回に、メアリ・ノリス『カンマの女王』を題材にして、誤字について書いた。 小説家も誤字とかするんですね! 意外! おもしろかったです!...
2021年7月21日
2021.1.21
地元の新聞社がくれた仕事だった。私が育ったのは西日本の、衰退していくいっぽう、という紋切り型が口をついて出そうになる、しかし数年に一度、海水浴場が人気ゲームとコラボしたりスポーツの国際大会で有力チームのキャンプ地になったりして、短い隆盛をくり返しながらゆるやかな下り坂を下り...
2021年7月20日
2021.1.20
しかしそういうことをしていると、それなりに時間をつかうものだ。大学院のとき、よく目をかけてくれていた、仏文学者で文芸批評もやり、小説まで書いてる教授のことをふと思い出す。彼はその数年前、内臓のどこかを悪くし、医者に酒を禁じられた。ゼミ後の飲み会でいつもの店に行っても自分はウ...
2021年7月19日
2021.1.19
何が起きても? 下戸で友達も少なく出不精の私の毎日は判で捺したように同じで、起き、食い、書く、のくりかえしだが、それでも一年あれば変化はあるし、人と会ったり遊ぶこともあるだろう。もともときっちり設計図や創作ノートを用意する習慣はなかったが、いつも以上に、何も準備せずに書こう...
2021年7月18日
2021.1.18
一日、を、一年かけて書く。一日に書くのは一、二枚、筆が乗ればそれ以上書いてもよいが、無理はしない。毎日が終わる前に、その日にあったことと、そこまでに書いてきた一日のことを思い出しながら書く。日記のように。そうやって日々、何が起きても書きつづける、そうすることで、一日のなかに...
2021年7月17日
2021.1.17
考えてみれば小説というのは変なもので、作者が一年間、毎日朝から晩まで丹精凝らして書いた文章を、読者はほんの数時間で読みおおせられる。それはすごく不均衡なことだ。書くことと読むことは、行為の質がまったくちがうのだから、かかる時間が違うのも当然のことではあるのだが、同じ文章を間...
2021年7月16日
2021.1.16
原稿は、すこしずつ軌道に乗ってきている。今週末にコラムの締切、来月には座談会があり、その準備のためにまとまった冊数を読まなければならないから、この中篇にばかりかかりきりにもなれないのだが、その前に文章を勢いよく流れるようにしておけば、またすぐに戻ってこられる。...
2021年7月15日
2021.1.15
私が専業に、恋人が完全在宅勤務になって、住所もひとつのところにして、これでずっといっしょにいられるね、と私たちは言いあった。でも、平日はお互いに毎日、土日も私は仕事をしていることが多く、その間はそれぞれの部屋にこもっていて、私たちはいま、ほんとうにずっといっしょにいるのだろ...
2021年7月14日
2021.1.14
恋人が部屋に戻る音。一本吸い終わって、そろそろ仕事をはじめるのだろう。
2021年7月13日
2021.1.13
私たちは外食どころか、喫茶店にいっしょに入ることも減り、おたがい下戸で飲み屋に行くのは誰かのつきあいだけで、いずれにせよ──これも中止したオリンピックの置き土産で──喫煙のできる飲食店はほぼ姿を消した。もしかしたら私は、もう何年も、恋人が煙草を吸う姿を見ていない。彼女の身体...
2021年7月12日
2021.1.12
交際をはじめて七年、同棲しはじめてからは五年、私たちはひどく安定していて、これからの一年も、喧嘩もなく幸せに過ごす。そんな、ほとんど退屈な確信があり、その確信はきっと外れない。だからこそ、この関係を変えるのがこわい。私は一度断られたいまも、彼女と結婚したいという意思をもって...
2021年7月11日
2021.1.11
本を読むのが好きな人が全員そうなのかどうかは知らないが、私たちはそれぞれの本棚を持っていて、そこに未読の本もたくさん並んでいるのに、ふだんは図書館で借りて読む。たしかこのあいだ、六日前か、彼女は年末年始の休館明けの市立図書館でハーパー・リーの何かを借りていた。洋画好きが高じ...
2021年7月10日
2021.1.10
みやびさんは、今日はミーティングある? 食器を洗う彼女の耳に口を近づけて訊く。仕事の予定を尋ねるのはいっしょに住むようになってからの日課だ。遠くの土地の人とやりとりをする仕事だから、先方との時差によってはミーティングがこちらの早朝や夜、食事どきに重なることもあるのだ。...
2021年7月9日
2021.1.9
七草リゾット。 ゆうべ言ってたやつ? 彼女は私の手許を覗きこむ。わ、フライパンでやってる。生米? リゾット用の米じゃないけど、できるもんだね。 緑があざやかだねえ。 もうあとは盛り付けだけ。顔洗ってらっしゃい。 はーい。あとトイレも行きます。...
2021年7月8日
2021.1.8
せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、と唱えてきて、この暗記法はたぶん五七五七七のリズムになっていることで憶えやすいのだがしかし、すずしろ、のあとは何だっただろう?と立ち止まるのを、毎年の七草の朝にやっている気がする。すずしろまでですでに七草は出揃...
2021年7月7日
2021.1.7
私たちが住んでいるのは角部屋で、物置にしているもと寝室以外の全部屋に窓がある。二棹の本棚の間からは、明るい時間なら大学の緑が見える。大学との間には平屋や二階建ての民家が並んでいて、やや離れた私たちの部屋からも、赤煉瓦の講義棟や、私がたまに利用する附属図書館の、本が日光で傷み...
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