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2021年9月4日
2021.3.7
座談会は一週間ほど前に行われた。当日のやりとりや、部屋のあたたかさや、長時間声を出すには乾燥していたこと、出されたコーヒーの酸味がつよくて私の好みではなかったこと、そういうことを思い出し、自分が口にした言葉を読みながら、何を意図してその発言をしたのかを、頭のなかに再現しよう...
2021年9月3日
2021.3.6
そこまで極端ではなくとも、話の道筋を整えたり、当日は曖昧にごまかしていた固有名詞を加えたり、長々しい説明を批評のタームで要約したりする。もちろんほかの人の発言もあるから会話の筋が乱れない範囲内で、自分がちゃんとしゃべっていたように見せかける。なんというかみみっちく、楽しい作業だ。
2021年9月2日
2021.3.5
でも、もちろん、というか、それは編集者なりライターなりが文字起こしを構成しなおしたもので、そのことを、構成:編集部、みたいなクレジットを見たことだってあるはずなのに思いつかなかった。ほんとうはみんなもっとグジャグジャとしゃべっている。私のはじめての座談会には宇野原さんも参加...
2021年9月1日
2021.3.4
原稿ひとつ終わったよ。 朝からえらいね。次は? 座談会かな、宇野原さんたちとのやつ。 もうゲラになったんだ。 いや、その前に文字起こしの原稿のチェック。 ふうん、と彼女はうなずいた。あんまり違いわかんないけど。 まあ、そうだよね。...
2021年8月31日
2021.3.3
水を流す音。恋人が居間に入ってきて、自室の前のエコバッグを見、しまってくれたんだ、ありがと、と言う。うん、と私は返す。お互いにそっけない口調なのは、私たちがこれまでに数え切れないくらいこの会話を交わしてきたし、今日も交わすのだと知っていたからだ。私たちは目を合わせて微笑んだ。
2021年8月30日
2021.3.2
彼女も同じものを私に感じてくれているのだと私は、玄関に放置されたエコバッグを見下ろしながら思う。彼女が配給の契約をまとめた北欧映画の前売り特典のトートバッグだった。煙草らしい小箱がいくつか、よく仕事中に食べているというラムネの大袋、期間限定のポテチ、牛乳かんがふたつ。バッグ...
2021年8月29日
2021.3.1
でも、恋人の仕事が終わるのを、彼女の最寄りのドトールで本を読みながら待つことはなくなったし、玄関ののぞき穴から、レンズでゆがんだ彼女の顔を見ることもなくなった。誰かといっしょに住むのは会うことが特別ではなくなるということだ。今ではもう、彼女の顔を見るだけでうれしくなることは...
2021年8月29日
2021.2.28
私たちが頻繁に触れあうことがなくなったのは、ウイルスのせいで、不用意に他人に触れることが忌避されるような一年を過ごしたからであって、私たちの関係が冷えてしまったからではない。
2021年8月27日
2021.2.27
おかえり。鼻赤いね。 寒いよー、手袋してけばよかった、近いからって油断してた。 まだ別々の部屋に住んでいたころは、冷たい手でいきなり私の頰を挟んできたり、仕返しに腋をくすぐったりして、そのままいつまでも触りあったりした。でも、ウイルスの蔓延とこの部屋への引っ越しを経て、私た...
2021年8月26日
2021.2.26
ドアを開けて居間に出る。恋人が薄手のコートを脱ぎ、玄関脇のフックにハンガーを掛けているところだった。外の静かなにおいがした。
2021年8月25日
2021.2.25
私もヴィッつぁんのこと、中学以降はぜんぜん知りません。そういうものですよね。私はそうやって返した。私たちが次にメールのやりとりをするのは次のしめきりのときだろうし、そのころには私たちは、メガネくんのこともヴィッつぁんのことも忘れてしまっているのだろう。...
2021年8月24日
2021.2.24
レギュラーでもなかったと思います。たまに私たちの小学校の校庭で試合することもあって、テニスコートが校庭の端だったから見えたんですけど、メガネくんはだいたいベンチでした。出ても代走とかで。 山添さん、テニス部だったんですね。そういえば最初の打ち合わせで錦織圭の話されてましたね...
2021年8月23日
2021.2.23
コンタクトにしたなら、野球もやりやすいと思いますけど、そのためじゃなかったんですね。私は受領メールへの返事にそう書き添えた。ふだんならそれでこの話題は終わりなのだが、記者も興が乗ったらしく、私たちは、新聞のルールに合わせた表記変更の確認、紙面にあわせたレイアウト、じっさいの...
2021年8月22日
2021.2.22
そのことを、当初はヴィッつぁんについて書いてたけどぜんぶ消した、ということを、原稿を添付したメールに書いた。担当記者からの返信には、彼女も小学生のころのクラスメイトに、目が悪いけど運動が好き、という男子がいて、でも彼は野球部だから、ゴーグルにつけかえなくても、サッカーほど支...
2021年8月21日
2021.2.21
もう一ヶ月ちかくずっと私はヴィッつぁんのことを考えつづけていて、とうにコラムも、ヴィッつぁんについての記述を削ったものを送稿したのだからもうヴィッつぁんのことは忘れなおしてもいいのに、いまだにヴィッつぁんの記憶は書ききれていない気がしている。
2021年8月20日
2021.2.20
私が、ほとんどのチームメイトのことを忘れてしまったいまもヴィッつぁんのことを、その顔やゴーグルや、サンガの眼鏡ケース、声、そういうことを思い出せるのは、きっとあの夜があったからだ。ヴィッつぁんは私のことを憶えているだろうか。
2021年8月19日
2021.2.19
それとも、私の様子を見かねた両親が買ってくれたのだろうか? いずれにしても、填めてみると手首が蒸れてかゆくなって、けっきょく二、三度しか身につけることはなかった。サンガもほどなく二部リーグの中堅ぐらいのチームになって、私たちの街で試合をすることはなくなった。そしてACミラン...
2021年8月18日
2021.2.18
あれは、ヴィッつぁんがくれたリストバンドだったのだろうか。
2021年8月17日
2021.2.17
二個セットで売られていたリストバンドで、あの夜ヴィッつぁんは両手首にはめていた。年に一度の京都サンガのホームゲームでも、親にねだって──親たちは、招待券をもらったのだし、何らかのかたちでチームにお金を落とさなければ、という義務感にかられでもしたように、消しゴムだのトランプだ...
2021年8月16日
2021.2.16
私は彼への寄せ書きに、ヴィッつぁんにいっぺんホンキでタックルされてみたいっす!とテキトーなことを書いた。イカスミスパ会で色紙を受け取ったヴィッつぁんは、ほかの人の言葉を読み上げてうれしそうにゲラゲラ笑っていた。もちろん私がその場でホンキのタックルをされることはなかった。本家...
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