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2021年11月23日
2021.5.26
それなりに集中して書き進める。ふと胃のなかから七草リゾットのチーズのにおいが湧き上がってきた。あれは美味かった、と思う時間が惜しくて、冷めたコーヒーを流し込んでにおいを押し返す。食べたばかりの美味いもののことを考えるのは人生の至福のひとつだが、私のそんな感情は読者にとっては...
2021年11月22日
2021.5.25
そんなことはないか。延々とつづくやくたいもない思考を打ち切ってアプリを閉じる。恋人もルールーもまだ私のメッセージを見ていない。仕事と睡眠と、それぞれのやるべきことに没頭しているのだ。 私は机に戻って、パソコンのスリープを解除する。銀行から自動送信のメールが来ていた。いくつか...
2021年11月21日
2021.5.24
みやびさん、仕事調整して参加するって。そうルールーに送り、パソコンのキーボードをばたばた叩くくまのスタンプを送るが、こっちも既読にならない。もう寝たのだろうか。 私はなんだか所在なく、そのままLINEニュースを見はじめる。芸能界では毎日いろんなことがある。ほとんどテレビを観...
2021年11月20日
2021.5.23
でもわたしも行くよ。万難をはいして……! 恋人は力強い言葉とともに、居合斬りをするペンギンを送りつけてき、じゃあとにかく、お昼まで集中するね、というメッセージのあとは、つかまつった、と蹲踞する私のペンギンは既読にもならない。
2021年11月19日
2021.5.22
さすがにそれは厳しいか。 たしかに! かっかっか、と大笑いするペンギンといっしょに送られてくる。 でももちろん、そんなことをヤスミンに伝えるわけにはいかないし、当事者──私の恋人とヤスミンとリーヴス──は大丈夫でも、それぞれの所属している会社が、社会がそれを許してくれない。
2021年11月18日
2021.5.21
『マトリックス』のシリーズのどれか二つと『スウィート・ノベンバー』しか私はキアヌ・リーヴスの映画を観たことはなく、彼のイメージはほとんどニュースアプリのゴシップチャンネルでつちかわれたものだ。ホームレスみたいな恰好で公園のベンチに座ってるリーヴス、パパラッチのカメラを奪って...
2021年11月17日
2021.5.20
ダメだー、と恋人は送ってきた。ヤスミン、明日の昼から三日間キアヌのアテンドだからミーティング延ばせないって。 リーヴス? リーヴス。 リーヴスならなんか、散歩優先していいよ!って言ってくれそうじゃない?
2021年11月16日
2021.5.19
とにかく、いろんな男(やその恋人)と切ったはったをくりかえしているエリカと、十数年間一人の男といっしょにいるリンという両極端な二人と、私の恋人が仲が良い、というのは、何というかバランスが取れているように思う。そう考えると、私たちが常に九人で──久保野くんやシロタくん、林原さ...
2021年11月15日
2021.5.18
昔ジャイアント白田というフードファイターがいて(今も活動しているのだろうか)、なにかの健康食品でさいごにシロタ株とつく酵素がふんだんに配合されている、というような売り文句のCMを観たことがあり、それで私はシロタくんのことを、胃腸がつよくてよく食べる、ひどく健康的なイメージで...
2021年11月14日
2021.5.17
シロタくんも、恋人の親友の一人である彼女が、会わない間に小説家と交際をはじめ、プロポーズを断り、しかし同棲はして、いまこうやって中央線の奥のほうで、いっしょに隣で仕事をしているとは思わなかっただろう。シロタくんはオフィス用品のリースをやってるさわがに商事の営業をやっていて、...
2021年11月13日
2021.5.16
卒業式のときはべつに、そういう、何ていうの、思想を行動で、行動しないことでしめすタイプの人とは思わなかった。 もちろんその日からとうに十年以上経っていて、人が変わるのに十年はじゅうぶんに長い。
2021年11月12日
2021.5.15
彼女が最後にシロタくんと会ったのは美大の卒業式に、同じ日に別の大学の卒業式に出ているはずのシロタくんが花束(もちろん薔薇の、九本の)を持って現れた日までさかのぼる。 同じ苗字になるのがいやってわけじゃない、結婚したらどっちの姓にしようね、みたいな話をすることもあるらしいし、...
2021年11月11日
2021.5.14
対照的にリンは、高校の同級生と、大学も職場も同じ街を選んで、十数年、そろそろ四捨五入で二十年になるほどつきあっていて、私の恋人が知っている範囲ではお互い浮気をすることもなく、いっしょに住みはじめてからでも十年くらい経っていて、そして籍は入れていないという。...
2021年11月10日
2021.5.13
恋人はその内容を、気が向けば私に教えてくれたし、あまりにエグい──というのがどうエグいのかは教えてくれなかったが──ときはただ、またエリカが男を捨てたよ、とか、どうしようエリカが寝取りの味に目覚めちゃった、とか、結果だけを伝えた。
2021年11月10日
2021.5.12
江の島散歩を提案したのはエリカだったが、いちばん飽きっぽいのもエリカで、途中しばしばスマホを触っていたのは、写真を撮っていただけではないのだろう。たしか私たちは、だいたいどこに行ってもエリカの、そろそろ帰ろーよ、という言葉をしおに引き上げた。その後の五年間で、私の恋人は彼女...
2021年11月8日
2021.5.11
九人で集まった最後の機会だった、という理由で私はあの日のことを記憶にとどめてはいるが、その日に私たちがやったのは、江の島に行き、歩き、ばしばし写真を撮ったくらいのことで、ウイルスのことがなく、次にまたみんなで集まっていれば、たぶん、そう強く印象に残るような一日ではなかった。
2021年11月7日
2021.5.10
あまりにしっかり舗装されて、それまで歩いていた道路と何も変わらない、まっすぐな橋のようだった。モン・サン・ミシェルの、海中に築かれた城に向かって曲がりくねりながら伸びる砂浜、みたいのを想像していた私たちは、ミツカくんが口にした、こらただの道やんけ、という、たぶん笑いを取るつ...
2021年11月6日
2021.5.9
私たち以外にも観光客らしい人通りはあり、疫病の蔓延がはじまるすこし前のことで外国人らしい姿もそれなりに見かける。周囲はどこにでもあるような住宅街なのに、観光地にちかいというだけで、人の生活の場に踏み込むことへの躊躇いを忘れてしまう。玄関先のホビットの人形、窓辺に置かれたピカ...
2021年11月5日
2021.5.8
私たちは江の島に向かって歩いた。私たちは湘南のこのあたりに来るのははじめてで、そのこんもりした姿とてっぺんの展望台が家に隠れると不安になって、見えるところを探してうろうろした。九人もいるのだから誰かがスマホの地図を見ることを言い出してもよさそうなものだが、私たちは愚直に、と...
2021年11月4日
2021.5.7
ルールーは手にコーラのペットボトルを持っていて、モノレールの駅から地上に降り、もうすぐ着くよ、というLINE──九人でつくっているLINEグループへの投稿だったから、八つのスマホがいっせいに鳴った──に応じて出迎えた私たちに笑いかけてから、たぶん半分くらい残っていたのを一気...
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